病気の話

腰痛について(その1)

副院長 兵藤 弘訓

はじめに

腰痛の生涯発生率は11%から84%と報告されています。2007年の厚生労働省の国民生活基礎調査によれば、有訴者(病気や「けが」などで自覚症状のある人)は、腰痛が男性では最も高く人口千人に対して87.4人、女性では「肩こり」の131.1人に次いで高く117.9人でした。いかに国民の多くの方が腰痛に悩んでいるかがわかります。

背骨(せぼね)の構造

「せぼね」は前方は椎体(ついたい)、後方は椎弓(ついきゅう)と棘突起(きょくとっき)、それらを連結する椎弓根(ついきゅうこん)で構成されています。腰ではこれら構成単位が5つあり、前方の椎体間には椎間板(ついかんばん)、後方の椎弓間には椎間関節(ついかんかんせつ)があり上下をつないでいます。椎間板は内部がゲル状の髄核(ずいかく)とそれを取り囲む強靱な線維輪(せんいりん)で構成され、クッションの役目とともに椎体間の動きを可能にしています。椎間関節は椎体間の過度の動きを制限し腰の安定化に関与します。逆に椎間板、椎間関節は腰痛の主な発痛源ともなっています。

「せぼね」の周囲には筋肉、靱帯があり、これらも「せぼね」の動きと安定化に関与しています。前方には主に椎体の脇と股関節をつなげる大腰筋(だいようきん)、後方には背筋群があります。腰の安定性の獲得のために腹筋訓練がよく指導されますが、最近ではこれらの筋トレーニングも注目を集めております。靱帯は椎体の前面にある前縦靱帯(ぜんじゅうじんたい)、椎体後面の後縦靱帯(こうじゅうじんたい)、椎弓間にある黄色靱帯(おうしょくじんたい)などがあります。靱帯は骨化や肥厚を起こし神経障害の原因になります(図1)。

脊柱管(せきちゅうかん)は椎体と椎弓の間に存在する空間で内部には硬膜(こうまく)によって覆われた脊髄(せきずい)とそれに連続する神経根(しんけいこん)が存在します。腰では主に神経根がみられ、あたかも馬のしっぽに似ているため、これら神経根の束をまとめて馬尾(ばび)と名付けられています(図2)。

腰痛の定義

腰痛とはいったいどの部位を指すのかは、国や地域さらには学会によっても異なり統一されておりません。たとえば、ヨーロピアンガイドラインでは、腰痛は肋骨縁より下部から臀部に限定的に起こる疼痛や不快感と定義していますが、日本整形外科学会や国際疼痛学会では臀部は下肢に分類しています。

記事が掲載された仙台整形だより

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